経済政策(福田政権)

2008/08/26

リチャード・クー氏の「バランスシート不況」。竹中平蔵氏の「サプライサイド経済学」

NHKの討論番組だったか、リチャード・クーという人が経済政策について語っていて、「えっ、この人、森永卓郎といい勝負だなぁ」と感想を持った覚えがある。森永さんにしてもある線までは鋭いけれど、いきなり飛躍するというか極端というか・・・。

報道ステーションで「麻生氏がリチャード・クー氏と会った」と報道されていたので、麻生氏がもし政権を獲ったら、再び失われた10年に戻るのね、とため息をついてしまった。今秋の補正予算は原油高の影響もあって、ピンポイント補助という形になるのは仕方ないにしても。

クー氏の経済政策について、検索してみた。
いやはや賛否両論入り乱れて読みふけってしまった。クー氏と対比させている人は竹中氏をボロクソ(笑)。つまり何が正しいか正しくないか、誰も正解を出せていない。

私の感想は、「経済理論では経済は良くならない」ということ。経済は生き物だから、不確定要素が大きすぎる。どんな隙のない理論でも、必ず絶対!見落としがある。だから、前から言っているとおり「理論」とは「~のように見える」だけと思う。時代によって理論を成り立たせる要因は劇的に変わるものである。理論はその時代にのみ「それが正しく見える」だけ。いろんな解説ブログを読みながら、素人の私であっても、少しずつ「ここの分析は間違っている」という箇所を見つけることができる。

まず池田信夫氏は、クー氏に容赦ない。

リチャード・クーは地底人か

一つだけ。今は「インフレ状態」とあるが、構造はデフレから脱却できていない。これについては髙橋洋一氏が詳しく説明している。

池田信夫の著作物HPより
落第生の答案
リチャード・クー『良い財政赤字 悪い財政赤字』PHP研究所

著者がマクロ経済学を理解していないばかりか、基本的な事実関係に間違いが多く、大学生の答案なら「不可」。たとえば彼は、1997年末の景気後退が橋本内閣の財政再建策によるものだという「俗説」は誤りで、拓銀や山一の破綻のあとのクレジット・クランチによるものであることは、GDPの速報値の日付を見ただけでも明らかだが、著者はそれすら知らないで、新聞の切り抜きをもとにして俗説を繰り返しているだけだ。

「俗説」の誤りを指摘していることに注目。

クー氏ご本人の説明を伺ってみよう。

リチャード・クー氏インタビュー「 バランスシート不況と「合成の誤謬」 」
(2005年1月掲載)

橋本政権当時は、財政再建ということが言われていましたが、私はそれをやったら日本経済がめちゃくちゃになるという論文を出しました。
そして、私が言っていた通りになったもんですから、各方面から話を聞きたいということになり、それ以降多くの政府委員会等に出席するようになりました。

小渕・森はクー氏をブレーンにしていた。

‐日本の景気もようやく明るさが見えてきましたが、現在取り組んでいる研究課題『バランスシート不況の理論と現実』について、今後の景気見通しにも触れつつ、理論の特色と実際の景気動向についてお話し下さい 
   
「バランスシート不況」とは私が言い始めたことで、今までそういう考え方はありませんでした。
今までの経済学の基本は、企業は利益の最大化を目指して活動するということで、大学でもそう教えています。
しかし、この十数年間の日本や、最近のドイツやアメリカで見られる現象は利益の最大化ではなく、債務の最小化ですね。でも、債務の最小化を前提としたマクロ経済理論は、ミクロの理論もそうですが、ないんです。
そんなことあり得ないということになっているわけですから。
だからそこはゼロから作り始めたわけです。

なぜ債務の最小化があり得るかというと、だいたいバランスシート不況になる前には、大きな資産価格の下落があるんです。バブルの時は皆さん借金してでもどんどんものを買いましたが、バブルが崩壊すると借金を残したまま資産価格が下がり、多くの企業が債務超過のような状況になってしまうわけです。
でも本業がしっかりしていれば、本業のキャッシュフローで借金返済ができるんですね。
そういう行動を、個々の企業が取り始める。
キャッシュフローで痛んだバランスシートを修復しようとすることは正しいのですが、全員が同時に同じことをすると全く別のことが起きてくる。
これが「合成の誤謬」と呼ばれる現象で、どんどん景気が悪化してしまうんです。

一国の経済というのは、家計が貯金して、それを企業が借りて使うということで円滑に回るわけです。
その真ん中に証券会社とか銀行があって、仲介業務をするんですね。企業が一斉に借金返済にまわったら、家計の貯金はまったく使われない訳です。
そうすると企業の借金返済と家計の貯蓄を合わせた額が銀行に入ってきて、二度と出ていかないということになります。これがデフレギャップです。
少なく見積もっても35兆円から40兆円あります。
ということは、誰かがこれを使わないと経済はどんどんシュリンクしちゃうわけで、それを私はバランスシート不況と呼んだわけです。

今の日本企業は、すでに十数年間借金返済を続けて、かなり有利子負債残高が落ちています。ただ、資産価値の下落があまりにも大きかったので、もう少し借金返済をしないと安心できないというのが今の状況だと思います。
ともかく「合成の誤謬」の中で、政府は民間に対して借金返済をやめろとは言えないわけです。
でもほっておいたら、それこそ大恐慌になってしまう。
こういう時には政府は民間と逆の行動をとらないといけないわけで、35兆円から40兆円を政府が借りて使う、そうすると全てが回るわけです。
これを私はずっと言い続けてきた訳で、このバランスシート不況に限って、財政出動は不可欠であるというのがこの理論です。

今後の景気見通しという点でいえば、まだ企業の借金返済はGDPの6%、30兆円規模で続いていますから、しばらくは財政支出を続けなくてはいけない。
しかし、もう1~2年もすれば、多くの企業が借金返済を終えるでしょう。一部の企業では、もう去年の4月から終わっているんです。

企業が再びお金を借りるようになれば、また金融政策が効き始めます。
そうなってくれば次は財政再建という話になってくるんだろうと思います。
でも今はまだそういう時期じゃないし、実際にそうなってから財政再建の話をすべきです。
最近消費税をあげようという話も一部に出てきていますが、血液の逆流が止まるのをまず確認してから消費税を上げるべきであって、まだそうなるかどうか本当にわからないのに、今から日程を決めようというのは危険だと思いますね。

バランスシートがきれいになったら企業がすぐにお金を借りるかと言うと、残念ながらそうではないでしょう。
一度バランスシートの問題で苦労した経営者は、いやな思いをした後遺症から、しばらくは借金拒絶症のような状況に陥るでしょう。
従って景気はまあまあ良い方向に向かうんですがなかなか本調子にはならない。
金利も、企業がお金を借りないものですから、GDPの数字が示唆する程には上がらず、今後も低金利が続くということでしょう。
本当にすべてが元の世界に戻るのはかなり先だと思います。

企業は借り続けているよ。不良債権で懲りた銀行が貸し渋りをしている。新銀行は貸しまくって潰れそうになったんだけど。財政出動は税金から出ていることを忘れているのか?クー氏は2005年時点で消費税を上げるべきではないと言っているが、バラマキによる内需拡大は長期的成長は見込めない。35兆~40兆!などという途方もないバラマキし続けるためには、消費税を上げざるを得なくなる。個人消費に水を差すという逆の結果になってしまう。

さて、竹中氏を「アメリカのポチ」とバッシングするこちらのブログでは、竹中氏よりクー氏のほうがマシらしいが、やはりクー氏も駄目出しされている。

リチャード・クーと竹中平蔵のアウフヘーベン

ブログでは竹中氏のサプライサイド政策・緊縮財政政策をトンチンカンと酷評しているが、竹中氏は単純に「企業をリストラして人員整理・合理化・規制緩和して市場原理に委ねれば雇用が増える」とはまったく言っていない。規制強化は既得権者を守るためのもので、労働や資金の流動性を阻む。規制緩和をしないと格差はもっと開くと言っている。もうちょっと説明が必要と思うが、まぁいいや。

ブログ主さんは「米国の金融機関に出資」することを「アメリカの犬」と言うわけだが、金融機関が大暴落している時に投資すれば、立ち直った時に大儲け(笑)。米国政府は金融恐慌にさせないために国費をつぎ込んでも金融機関は守る。中東の政府系ファンドからも投資を受け入れているのを見てもわかるように、今大きな投資をすることは、米国に恩を売ることになるのである。

サプライサイド経済学とは、生産性の向上を高めると同時に、減税によって得られる購買意欲→税収アップ(ラッファー曲線)、結果として労働供給量を高める、そんなところだろうか。しかし、原理主義的なものではなく、竹中氏自身は、雇用創出のために時代に即した産業復興を提言しているのである。このブログ主さんは誤解していると思う。竹中氏は、日本の将来性は、金融・情報・文化・観光にあるとする。改革派と呼ばれる政治家は、共通して環境、観光をキーワードに国として投資するように誘導している。

財政出動型クー氏の政策に従って、30兆40兆も国がばらまいたとしても、紹介したブログで指摘しているとおり「新たな財の供給力を生むこと」はできないのである。中長期的な政策にはなり得ない。しかし、日本を財政出動型に戻せば景気回復すると信ずる麻生氏が、クー氏をブレーンにしたいと思っても不思議ではない。小泉氏は何人もの経済学者に会って、竹中氏を選んだ。麻生氏は経済政策を失敗するだろう。

財政再建とは、歳入と歳出の均衡である。財政出動派は、歳出削減努力もせずにどこまで借金を膨らませるつもりだろう。失われた10年の時、景気浮揚策と称して130兆円を無駄にしたという。同じ失敗を繰り返してはならない。

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小泉改革の負の遺産と言う時、公共事業の削減、地方交付税の減額が一番大きいと思う。しかし、これは必ず改革を進めて乗り越えなければならない課題なのである。たとえば企業のリストラは、まず人員整理・経費節減から始める。無駄を省いてから設備投資するのと同じ事。小泉時代に痛みを強いたが、さあ!これからという時に「やっぱりやめた」と後戻りすれば、痛みに耐えた意味もなくなる。かんべんしてくださいよー

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2008/08/08

中川vs与謝野から中川vs麻生へ

麻生さん・・・

上げ潮派vs.増税派の論争にひとまず決着がついたと思ったら、第三の“バラマキ”景気回復路線が出てきた。それも与党執行部の中から。危惧したとおり、麻生-古賀のふる~い手法で・・・。

一つ弁解させてほしいのは、私も今は応急措置として財政出動してもよいと思っている。しかし、現在とるべき景気回復策は点滴みたいなもので、恒久的なものではない。痛みを緩和させるならば、来るべき選挙にも良い影響を及ぼす。なんだかんだ言っても民主党に政権を獲らせたらヤバイので、選挙対策のためにもやったほうがよい。米国経済が落ち込んでいる状況で、以前ほどではないが、いやでも波をかぶる以上、プライマリーバランス2011年目標が多少ずれこんでも仕方ないと考えている。

しかし、基本原則は財政再建であって、それを支える経済成長を軌道に乗せるためには、システム再構築による抜本的な歳出削減と同時に、中長期的な産業育成・人材育成にカネを投入すべきなのである。無駄ゼロ運動も有権者へのアピールとして必要だろう。

王道の景気回復策は産業振興であり、減税である。“環境”を一種の国策産業として、産業界に大きな構造変化が起きてくるだろう。経済成長路線は、中長期的視野でグランドデザインを描いている。

小泉時代のように「カイカク!カイカク!」と叫ばなくとも、待ったなしで変えなければならない方向性には、一定のコンセンサスができていると思う。アンチ改革として立ちふさがっているのは、社会民主主義(大きな政府)に戻そうとする右派と左派なのである。

麻生氏は景気回復策で日本は元気になる!と思わず拍手したくなるような演説をしてくれるが、実はそのやり方は高度成長期に有効だった公共事業による内需拡大がメインだ。麻生氏も“環境美化”“耐震性強化”を打ち出して、その方面に公共事業を拡大しようとしているが、まだその準備は整っていない。大きなインフラ事業は空港整備で一息つき、公共事業は今後は国が主導するのではなく、地方が地方の実情に合わせてシェアする方向に行く。

改革派でなくとも無駄な公共事業には監視の目が厳しくなっている昨今、公共事業という名のバラマキに戻してしまっては、日本の立て直しは数十年遅れてしまう。ケインズ理論はすでに時代にそぐわなくなっている。麻生氏の主張する「道州制」が、せっかく麻生氏が描くバラ色の地方分権とは矛盾して、やはり国の管理下に置かれざるを得ない状況が続いてしまうのである。

中川秀直氏のブログより

■ (財政再建目標先送り?)「路線転換、即、政局」

日経に「麻生氏、景気優先鮮明に」「『基礎収支黒字化』先送り検討」「『選挙の顔』を意識」「政府・与党内で路線対立」が書かれている。

(略)
『財政再建をやりながら何かすると、かなり手足が縛られる。優先順位は景気対策が先だ』。麻生氏は5日のインタビューで『骨太方針2006』で決まった基礎的財政収支の黒字化目標に異論を唱えた。景気後退が現実味を増す中で麻生氏は『次期衆院選の顔』となる。理屈はある意味、明快だ。

古賀誠選挙対策委員長も『(必要な場合は)思い切って財政出動に踏み出す』。保利耕輔政調会長も新規国債発行の30兆円枠について『枠をはめて考えるのは私のやり方ではない』と足並みをそろえた。『財政再建は堅持する』とも強調する麻生氏だが『景気回復で税収が増えるのがよい』との立場。黒字化目標は『2-3%の名目経済成長率が2、3年続いて、そのうえで改めて(目指す)というのが順番』という。

政府・与党内ではこれまで『上げ潮派』と財政再建重視派がしのぎを削っていた。基礎的財政収支の11年度黒字化は両者の共通目標で、違いは手段。上げ潮派は徹底的な歳出削減、財政再建派は増税だ。だが歳出削減は地方や業界団体などの批判を浴び、消費税増税は国民の多くが嫌がる。共に痛みを伴う不人気政策だ。

歳出削減路線を修正し、増税の必要性を遠ざけ、財政出動に道を開く――。自民党にとって黒字化目標の先送りは「一石三鳥」の効果を持つ。麻生氏は『政府としてはなかなか言いにくいところがあると思う』として党主導による路線転換を探る構え。だが、自民党内には賛否が混在するのが現状だ。

『首相が言っていることと違うじゃないか。首相は昼に何と言った?首相の言うことが正しい』。上げ潮派の中川秀直元幹事長は、都内で日本経済新聞記者らに感想を漏らした。福田首相は同日昼、首相官邸で記者団に『あらゆる方策を使って達成する心構えが極めて大事。それを実現したい』と黒字化目標堅持の姿勢を明確にした。財政再建派の与謝野馨経済財政担当相も『目標を動かすわけにはいかない』との立場だ。

―中川の眼―

文中に、私の「首相は昼に何と言った?首相の言うことが正しい」という言葉が入っているが、その一言に尽きる。

福田総理の経済財政路線は明確である。この明確な路線に反対する人がつい先日任命された党執行部の中にいるとは信じられないのだが。

なぜなら、それは「政策論議」の域ではなく、「路線転換、即、政局」を意味するからだ。ここは総理・総裁と党執行部の合意形成を注視したい。(8月6日記)

麻生-古賀-保利 だから言ったじゃないの(笑) アンチ改革派が勢揃い。

選挙なり内閣総退陣が近いなら、麻生氏の元気の出る演説は効果的かもしれない。しかし麻生-古賀路線が継続しては、今まで苦労して再建の目処を付けてきた改革は頓挫する。一時は土建業者は喜ぶかもしれないが、需要の枯れてきた業者だって自力で新しい道に活路を開き始めている。民間のほうがよほど知恵があるし、しぶとい。

この秋は、中川VS与謝野から中川VS麻生になるのかな。与謝野氏の論理は穴だらけで簡単に論破されてしまったけれど、いよいよ大物登場でワクワクしてしまう。(笑) これからが本当の見所よ。あー楽しみ!

内閣改造では、福田首相は人気の麻生氏をなんとしても取り込みたかった。福田首相は麻生さんを救世主と思ったのかな?私も麻生さんは嫌いじゃない。一度総理大臣をやらせてみたい。麻生流の外交に大いに期待する。しかし、今回の内閣改造にあたって、国民は意外にも派手な「人気」ではなく、地味に「政策」を注目していることを福田さんは知らなかったのかもしれない。

麻生氏が幹事長を引き受けた瞬間、いろ~んな力学や派閥の論理で、人事構想の中に入っていた上げ潮派は、玉突きで外にはじかれてしまったようだ。どちらが正解だったのか、すぐ結果は出ると思う。

世耕日記より 8/3

 地元和歌山で活動。ミニ集会、茶話会などで積極的に有権者に接触したが、内閣改造に対する評価は予想以上に厳しい。特に目玉と言われている人物の入閣への批判が強いのには驚いた。あるいは渡辺大臣や石破大臣が閣外へ去ったことへの批判も多かった。また組閣全体が改革からの後退ととらえられている。今後、具体的な政策やその他の人事で改革色を出していかないと大変なことになるのではないか。

もう大変なことになっているよー。

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世耕さんは有権者からお目玉食らったのか。目玉違いだったね。

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